身近な歴史をリアルに ~アルバムのカラー化 呉海兵団編 その4 教育①

アルバムカラー化
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身近な歴史をリアルに ~アルバムのカラー化 呉海兵団編 その3 新兵② の続編となります。

  • 旧漢字及び仮名遣いは、それを知らない方にも解るように改めています。
  • 身近にはなさそうな物については、商品画像を付けていますのでご参考にしてみてください。
目次

アルバム(昭和二年度志願兵 四等機関兵修業記念 呉海兵団)

入団式

入団式文字画像

おお、晴れたみ空よ記念すべき日だ君が代、
海行かばの楽の音もいと重々しく我等の栄ある入団式は行われた、
見よ号令台前の幾千の健児を、
今将に彼等は皇国のための第一歩を踏み出さんとして居るのである

入団式画像

「海行かば」は楽曲の題名になります。
写真では小さく解りにくいかも知れませんが、場所は恐らく呉の練兵場と思われ、写真右手少し上側に号令台があり、3名の方が登壇中のようです。
少し上に見える建物が位置的に海軍病院、左手が鎮守府司令長官官舎(今の入船山記念館)になると思われます。

起床

起床文字画像

パイプが鳴る ソーイン……
コラ足を出しているのは誰か靴下を脱げ
ソーイン……ソーイン起こし一斉に釣床を
飛び出し競争のスタートは切られた午前五時

起床画像

パイプとは起床ラッパを意味していると思われます。
ソーイン起シとは総員起こし、釣床とはハンモックの意味です。
沢山吊り下げられているのがハンモックで、この写真に写っているのが訓練用なのか実生活なのか解りませんが、もし実生活用とすると、中々厳しい訓練生活だと感じます。
ハンモックの中は下着だけで、起床ラッパと共に飛び起き、水兵服に着替えて、隊舎の外に整列、点呼していたと思われ、靴下を脱げと言うのは、出来るだけ着替えの時間を短縮するために、靴下を履いたまま寝るのはズル、と言う意味だと思われます。
それにしても午前5時起床は早いですね。

食事

食事文字画像

新兵さんの一番楽しみなものは食うことと寝ることなり、
飯の盛り方「パン」の厚さにも一喜一憂、
旧兵の一倍半もある食事を見事に最後の一粒までも平らげる豪気振り
それにしてもこの大きな釜を見よ、
なんと「デカイ」ものではないか
気の弱いお嬢さんに見せたら「オッタマゲル」ことだろう。

食事画像

イギリス式に範を取った海軍のため、諸事洋風が取り入れられていますが、当時特に地方ではパン食は極めて稀だったのではないかと思われます。
しかし、どうしてここに気の弱いお嬢さんが出て来たのか不思議ではあります(笑)

課業整列

課業整列文字画像

ピー! 兵舎離れ!!
号令一下ドーと兵舎もゆるぐばかりに飛び出す、
そうして一分もすれば物の見事にかように整列する、
課業整列!! 我等軍人としての素地を作る今日の第一歩なり

課業整列画像

入団式の写真の時と同じ呉練兵場と思われます。
写真奥の霧がかかった山は休山です。
入団式の時は休山に向かって整列していましたが、この写真では休山を背にして整列しています。
この写真の手前側に呉海兵団がありました(現在は海上自衛隊呉教育隊)。

機関術(座学)

機関術文字画像

これは何? 教班長は指差された
甲『速度計であります』 乙『速力通信器であります』。
さあどちらが本当なのか、さっぱり分らん、お前等は教わっておらないのか。
習いました 習って分らん事があるかい。
ハイ恐れ入りましたと赤い顔。

機関術画像

当時、動力のついた交通機関が鉄道以外身の回りに少なかったでしょうから、現在の我々が自動車教習所でエンジンの仕組みを習うよりもハードルが高かったのではないでしょうか?

機関工業(鍛冶)

鍛冶文字画像

鉛棒の延方から始まって四角棒が八角棒となり
鏨(たがね)の形に出来上がるまでの苦労は並大抵の事じゃない
『イチニサンシシトンーーシ』と専務教員は掛声面白く熱心に教えてくれる、
山から掘り起こされた鉄塊も水に冷され火に焼かれ金敷台で鍛え上げられてこそ正宗の名刀も出来上がる、
俺等も如何なる困苦欠乏にも打ち勝って軍人精神を鍛え上げなければならない

鍛冶画像

一旦港を離れれば数週間~数ヶ月陸地に戻る事はない艦船勤務なので、海の上でも何か壊れたり、不足したりすれば、自ら修復・復旧する必要があって、このような訓練をしていたのだと思われます。
鏨を製作しているようですが、鏨については次章でも触れています。

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機関工業(鏨)

鏨文字画像

鏨「新兵サン 君は鉄板を削っているのか、手を打つ稽古をして御座るのか」
悔しいが全く始めの間は手の甲ばかり打って飛び上がったり睾丸を縮ませたり、
鏨「新兵君 今日は三回目で大分上手になりましたかネー、僕も今日はヅキンヅキンと痛さが身に応えますよ」
新兵「馬鹿にするない 赤子でも三年すりゃあ三歳になるよ、帝国海軍軍人様の俺だ
今に目にもの見せてやるからノー」
こうして鏨と争い 痛さと無念さを凌いだ刻苦精励(こっくせいれい)の賜(たまもの)は 今日この頃では
カッチンカッチンと槌(つち)の響も勇ましく 一槌毎に、厚い鉄板の二三分も削ろうという俺様の腕前だ、

鏨画像

鏨(たがね)とは金属を加工する工具だそうで、主にハンマー(槌)と共に使用するそうです。
槌は金槌(かなづち)のつちです。
慣れない始めの内は、槌で鏨を打たずに手の甲を打ってしまい、かなり痛い思いをしてしまう、と言った意味のようです。

機関術(焚火)

焚火文字画像

海軍にこんな難しいことがあるとは入団の日まで イヤやってみる今日の日まで少しも知らなかった、
ソラ腰のひねりが足らぬ!!
ソラ足をまげてはいけない!
十能(じゅうのう)を腰から離すから石炭が飛ばない!、………
便所へ行っても腰はまがらない、夜ねるときは足がヅキヅキといたむ、………
が卒業前には一時間位は平気の平左、数万トンの軍艦の戦闘力の原動力だ、しっかり罐焚け!!

焚火画像

艦船の燃料が石炭から重油に切り替わりかけている時期だったようですが、新兵の訓練としては、まだまだ石炭前提の事が多かったのでしょう。
十能とは小型のスコップだそうです。
少し調べてみたところ、”舶用石炭焚きボイラとその焚火法 : 日本海軍における十能操法を巡って“(大阪市大)論文の中で、まさにこの木製の柵を使った十能の訓練を行っていたとの記載がありました。
この写真だけだと、罐の焚火の訓練とは解りにくいですし。

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実務練習(団内罐室)

団内罐室文字画像

今日が日まで錬った立派な腕前の発揮?
ソレ十能をぶっつけた、散し投げ方になっておらん、炉内には庭の築山の様に石炭が盛り上がる、
ピー!! 交代!! グルグル廻り!!
汽醸下士官! 焚火諸亢は幾らか?
知りません!
馬鹿!! そんなことで罐が焚けるか!! 聞いてこい!
砕炭員!
石炭はどの位の大きさに割るのか?
握り拳の大きさであります!!
これを見い、お前の拳は頭程あるのか!
ハイ、イエ、…

団内罐室画像

蒸気機関車のボイラーにショベルで石炭を投げ入れる場面は、映像などでご覧になった事があるかも知れませんが、ほぼ同じ要領と思われます。
石炭は均等に散布する必要があったそうで、それが散し投げ方と思われます。
かなりの重労働であった事は想像するに難くありません。

実務練習(機械室)

機械室文字画像

「蒸気力を用いる舶用機関は罐、機械及び推進器の三要部より成る、蒸気機械には吸鍔式機械と「タービン」式機械との別あり…」
等と難しいことを教えられても海水が塩辛いということを入団して始めて知った山猿には何のことやらわからない、
…が教班長の熱心な教授振りによって段々と了解も進みいよいよ実習とまで漕ぎつけた、どうやら機関兵ラシクなった気がする、
しかし「マーなんと大きな機械が軽そうに廻ること…」と鳩豆式の顔をするところはやはり山猿の域を脱しないのかナァ…と悲観もしてみる

機械室画像

推進器とはスクリューの意味、吸鍔式とは聞き慣れませんがピストン式を意味するそうです。(鍔は刀のつば)
鳩豆式の顔とは鳩が豆鉄砲を食ったような顔、の意味と思われます。
しきりに山猿を強調されていますが、今と違って交通機関が未発達のため移動は困難で、テレビなどの情報伝達ツールも殆どない時代ですから、新兵さんが体験するあらゆるものが新鮮だったと思われます。

身近な歴史をリアルに ~アルバムのカラー化 呉海兵団編 その5 教育②に続きます。

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この記事を書いた人

ITの世界の片隅で過ごして早30年になりますが、この20年近くはほぼマネジメントしてます。
興味の幅は浅く広く、一旦興味を持ったらかなり深く追及するタイプです。
現在過去未来の由無し事をゆるりと書き連ねたいと思ってます。

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